1975年6月29日 近藤芳美選 朝日歌壇
受話器取れば話す間あるかとまず問いて預けおきたる子のしゃくりあぐ
1975年6月29日 宮柊二選・前川佐美雄選 朝日歌壇
君と会う喜び秘めて結い上げし髪崩すとてピンを抜きいる
評 愛の歌。
1975年7月 五島美代子選 朝日歌壇
生計負う日々重たくて祖国に核配備ありとは吾知らざりき
評 知らされない民の憤りを述べて切ない。
1975年8月3日 朝日新聞 宮柊二
朝鮮を分断させし大国の宇宙の握手華やかに見す
評 第一作―米ソ両国の宇宙船の宇宙結合の計画、また成功に関するはなばなしいテレビや新聞の報道。それに対して、否む心情を、朝鮮を祖国とする作者はうたっている。「宇宙の握手」などかるくなるべき語が、歌の心情からそうなってはいない。
1976年6月 五島美代子選 朝日歌壇
熱かりき君の手ほほに触るるとき祖国も吾子も遠く霞みぬ
1999年5月号 未来 歌集歌書書評――未来会員近刊
朴貞花歌集『身世打鈴』(砂子屋書房)
あふれる思いを盛り込んで 大田美和
在日コリアンの問題に少しは詳しいつもりでいたが、この歌集を読んでまだ知らないことが多いと痛感した。乗鞍スカイラインが強制徴用によって作られたこと。革新市長を出したくて、選挙権がなくても選挙運動に関わる在日コリアンがいること。一人の生にふりかかった歴史と社会に関わるさまざまなできごとを歌の形で訴えられた時、それまで歴史的事実としてぼんやりと知っていた事柄や言葉が新たな迫力をもって立ち上がる。
著者は二歳の時、強制徴用の父の逃亡を防ぐために、母と共に朝鮮から呼び寄せられた。労働の苦しさに一家で逃亡し、会津で敗戦を迎えたが、帰国の機会を逃した。身世打鈴は、朝鮮語で自分の身の上を物語風に唱えること。まさにその名にふさわしい歌集である。
陽の目見し入選歌わが本名に差別なき場もありし喜び
嬉しい思いが伝わってくる歌だが、ご子息は、フリーライターとしての出発の時にそれとは別の思いを味わっている。
「出版もさせぬ」と言いたる人ありき応募せし子の処女作「もう一人の力道山」
人の言う差別はやっぱりあったよとひとこと言いて子は電話切る
「もう一人の力道山」は、第二回「週刊ポスト」「SAPIO」世紀国際ノンフィクション大賞最終候補作品で、現在は小学館文庫に入っている。権威ある賞の決定の際にそんなことがあったとは、日本人として恥ずかしい。
このように、事実を述べて訴えかける歌が多いが、個人としてのささやかな思いを述べたこんな歌もある。
君と会う喜び秘めて結い上げし髪崩すとてピンを抜きいる
夫を亡くした後、出会った人への思いを詠ったと思われる歌である。髪を結い上げる動作が高揚した作者の気持ちを表しているが、それが、下句ですぐに、せっかくきれいに結った髪を崩す動作によって、一気に崩されている。鏡を見てピンを抜きながら日常の冷静な自己を早くも取り戻す作者。相当の苦労をした人でなければできない恋歌である。
別冊のエッセイ集はわずか三十二ページの小冊子だが、読み応えがあった。短い字数の中にあふれる思いを盛り込むコツは、短歌から学んだことであろう。その中の一つ、「手」は七人の娘を育てたお母上についてのエッセイ。「この手で土方もしたし、飯場で何十人ものご飯を炊いた。闇米も運んだ。(中略)今日まで生きてこられたのも皆、この手があったからだ。キムチもおかずもこの手が味をつけるから、美味しいのだ。本当に有り難いことだ」というお母上の言葉が美しい。
☆この歌集の評を書いて下さった大田美和さんは、私が朝日歌壇に時々投稿をしていた時に、大学生で投稿をしていた人である。私の息子の李淳馹よりも2歳年少である。私が生活に追われている時には学生であった。現在は著名な歌人であり歌集や研究書も何冊も出版している優秀な大学教授となっている。
近藤先生が「朝日歌壇」で取り上げた人の中には何人もの著名な歌人が出ている。
片や、今日一日の事「今」のことで、精一杯の生活しか考えられなかった私は短歌について学ぶこともしなかったし、その時々を無事に過ごせることを感謝する日々を過ごしてきた。現在の私は、そろそろ、お迎えが来るかもしれないからと、こうして、過ぎし日々を綴っている。

○夫の反対があったが、3か月の約束で近藤先生の教室に通った。年末に写真を撮り、食事会をした。口実を付けて引き伸ばし、先生の歌の碑が広島や東北に建立され、その除幕式に参加した。
沖縄の旅行にも参加した。無理をして参加したことは良い思い出になっている。10歳年長の夫は、比較的現代的な人であったが、女が学ぶことを良しとしなかった。何時も、それ以上学ばなくても良い、十分だと言うのだった。
娘が結婚をする時に、一つだけお願いをしますと朝鮮舞踊を習わせてと言ってくれたのだが、とうとう許可を出してくれなかったし、ハングル試験も私が、話さずに申し込んでしまったので受験できたが、合格したので上の級を受験しようとしたが許されなかった。

▲ by pcflily | 2015-04-25 18:33 | アリランエッセー | Comments(2)