憂愁の淵に沈むばかり
昨夕からの春の嵐で向こう三軒両隣の道路に薔薇の花びらが散り敷いていた。迷惑と思うので、風の中を片付け、枝についている薔薇も手の届くものは踏み台を置いて切り取り、花瓶に生けたり大皿に浮かせた。今夜は薔薇の風呂にしよう。
手前にあるのは琴だ、息子の修学旅行のお土産、あの頃は本当に優しい子であった。
六月号原稿
憂愁の淵に沈むばかり 朴(ぱっ) 貞(ちょん) 花(ふぁ)
終の棲家も表札は「朴貞花」
鍵を開けた玄関に愛用の下駄
スリッパなく布草履
着物姿の美人図壁面を埋める
生地の朝鮮の記憶なく―――
綿入れ半纏にくるまり
涙に暮れたふるさと
雪の会津を想う
日本語は私の
国語でないと知った日
堅香子の花の
オモニ手作りの人形
朝鮮語も朝鮮史も
子育て終え、独習で学んだ
辛くて悲しくて
何度も本を閉じた―――
焼肉より寿司を好む
師も友も日本人
日本語の思考と常用
でも、私は朝鮮人
日本の朝鮮侵略の為の
「盗測」から始まった (盗測・1872年)
強奪の植民地占領が
私をこの地に住まわせた
この世界に正義は通じない
無力な国、無力な人間は
差別、蔑視、攻撃を受ける
史上最大の
米韓合同軍事演習―――
悪逆非道は栄える
私は憂愁の淵に沈むばかり
by pcflily | 2016-05-04 21:46 | 『新日本歌人』